資産を次世代に引き継ぐ際、**「生前に贈与するか(生前贈与)」「亡くなってから相続させるか(相続)」**の選択は、相続税・贈与税の負担に大きく影響します。特に不動産(土地・建物・収益物件)はその評価方法の特性から、相続税対策の道具として重要な役割を果たします。
本記事では、2024年の税制改正後の最新ルールを踏まえて、不動産を使った「生前贈与 vs 相続」の選択基準を解説します。
相続税と贈与税の基本
相続税
亡くなった方(被相続人)の財産を引き継ぐ際にかかる税金です。
相続税の計算フロー:
1. 課税遺産総額 = 遺産総額 - 基礎控除額
2. 基礎控除額: 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
3. 課税遺産総額に超過累進税率を適用
相続税率(課税遺産総額):
1,000万円以下: 10%
3,000万円以下: 15%
5,000万円以下: 20%
1億円以下: 30%
2億円以下: 40%
3億円以下: 45%
6億円以下: 50%
6億円超: 55%
贈与税
生存中に財産を他者に贈与した際にかかる税金です。
| 方式 | 基礎控除 | 特徴 |
|---|---|---|
| 暦年課税 | 110万円/年 | 毎年少しずつ贈与 |
| 相続時精算課税 | 累積2,500万円 | 相続時に精算 |
2024年税制改正の重要ポイント
2024年1月から贈与税の重要なルールが変更されました。
暦年課税の「持ち戻し期間」延長
従来は「死亡前3年以内の贈与」は相続財産に加算されていましたが、**2024年以降の贈与から「死亡前7年以内」**に延長されました。
改正前(〜2023年): 死亡前3年以内の贈与 → 相続財産に加算
改正後(2024年〜): 死亡前7年以内の贈与 → 相続財産に加算
(ただし死亡前3〜7年分は100万円まで控除)
この改正により、「毎年110万円の暦年贈与を早く始める」ことがより重要になりました。
相続時精算課税制度の改正
2024年から、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設されました。
改正後の相続時精算課税:
・累積2,500万円を超えるまで贈与税は課税なし(特別控除)
・さらに年間110万円の基礎控除が新設
→ 年間110万円まで贈与税・相続税ともに非課税
不動産を使った相続税対策の仕組み
なぜ不動産は相続税に有利か
不動産の相続税評価額は、市場価格より低く評価される傾向があります。
| 財産の種類 | 相続税評価額の目安 |
|---|---|
| 現金・預貯金 | 100%(額面通り) |
| 上場株式 | 約70〜90%(相続時の時価) |
| 土地(路線価地域) | 市場価格の約70〜80% |
| 建物(固定資産税評価額) | 市場価格の約50〜70% |
| 賃貸用不動産 | 土地評価にさらに貸家建付地割合を適用 |
例: 市場価格1億円のマンション
路線価評価: 8,000万円(80%)
貸家建付地割合(土地): 8,000万円 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
例: 8,000万円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0) = 8,000万円 × 0.82 ≒ 6,560万円
建物(固定資産税評価額): 4,000万円(市場の50%)
建物(貸家): 4,000万円 × (1 - 0.3) = 2,800万円
相続税評価額の合計: 6,560万円 + 2,800万円 ≒ 9,360万円 → 但し市場価格比61%相当
現金1億円相続との差: 約640万円の節税(相続税率30%で約192万円の節税)
収益物件の相続税対策効果
賃貸中の収益物件(区分マンション・一棟アパート)は、「貸家建付地」として評価額が下がります。
評価の流れ:
1. 土地評価: 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
2. 建物評価: 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
賃貸割合が100%(満室)の場合:
土地: 自用地評価 × (1 - 0.6 × 0.3) = 自用地評価 × 82%(一例)
建物: 固定資産税評価額 × (1 - 0.3) = 固定資産税評価額 × 70%
生前贈与 vs 相続:どちらが有利か
ケース1:財産が少ない(基礎控除以内)
相続財産が基礎控除以内なら相続税ゼロです。生前贈与で贈与税を払う必要もありません。
例: 子2人の場合
基礎控除: 3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円
財産が4,200万円以下 → 相続税ゼロ
→ 生前贈与の節税メリットは小さい
ケース2:財産が1〜3億円の場合
暦年贈与(毎年110万円)を長期間実施する戦略が有効です。
年間110万円の暦年贈与を20年間実施:
110万円 × 20年 = 2,200万円を無税で移転
この2,200万円に対する相続税(率30%と仮定):
2,200万円 × 30% = 660万円の節税
暦年贈与は早く始めるほど有利
2024年改正で持ち戻し期間が7年に延長されました。贈与を早く始めるほど「相続時に加算される贈与が減る」ため、できるだけ早い段階(子が20代〜30代のうち)から始めることが重要です。
ケース3:財産が3億円以上の場合
相続税の最高税率(50〜55%)がかかる層では、積極的な贈与・法人化・不動産活用を組み合わせる必要があります。
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| 暦年贈与(子・孫へ) | 年間110万円×人数分の非課税移転 |
| 相続時精算課税 | 年間110万円の基礎控除活用 |
| 教育資金一括贈与 | 1,500万円まで非課税 |
| 結婚・子育て資金贈与 | 1,000万円まで非課税 |
| 法人化 | 不動産を法人に移転し株式を承継 |
| 不動産活用 | 収益物件で評価額を下げる |
ケース4:不動産(収益物件)を生前に子へ贈与
不動産を子に生前贈与する場合、不動産取得税・登録免許税が発生します。
不動産取得税: 評価額 × 3〜4%(土地・建物)
登録免許税: 評価額 × 2%(相続時は0.4%)
贈与の場合の税コスト:
不動産評価額3,000万円の場合:
不動産取得税: 3,000万円 × 3% = 90万円
登録免許税: 3,000万円 × 2% = 60万円
贈与税(評価次第): 課税対象額に応じて課税
相続の場合の税コスト:
登録免許税: 3,000万円 × 0.4% = 12万円(相続の場合は低い)
不動産を生前に贈与すると、移転コストが相続より高くなります。単純に「節税になる」とは限らず、ライフプランに合わせた総合的な判断が必要です。
税理士への相談が必須
生前贈与 vs 相続の判断は、以下の要素を組み合わせた複雑な計算が必要です。
- 財産の総額・種類
- 相続人の数・関係
- 被相続人・相続人の年齢
- 将来の収益・財産の変動
- 2024年税制改正後のルール
- 地域・物件の特性
必ず相続税に詳しい税理士に相談してください。「贈与」「相続」を比較した複数のシナリオをシミュレーションしてもらい、最適な戦略を選びましょう。
まとめ
| 生前贈与 | 相続 | |
|---|---|---|
| 有利な状況 | 財産が多い・長期計画 | 財産が少ない・急ぐ |
| 不動産移転コスト | 高い(取得税・登録免許税) | 低い |
| 評価額の圧縮 | 収益物件の活用で圧縮可能 | 同様 |
| 時間 | 早く始めるほど有利 | 不要 |
| 2024年改正の影響 | 持ち戻し7年・精算課税に110万円控除追加 | 変化なし |
相続対策は「早期着手」が最大の節税策です。まず現状の財産評価と相続税試算を税理士に依頼し、不動産活用・生前贈与の組み合わせを設計しましょう。
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