不動産の「価格」を決める方法は1つではありません。特に投資用不動産では**「積算評価」と「収益還元法(収益還元評価・DCF法)」**という2つの評価方法が重要で、融資審査・物件の適正価格判断・売却の場面で使われます。
両者の違いを理解することで、「この物件が高いか安いか」「なぜ融資が通らないのか」「どう交渉するか」が分かるようになります。
2つの評価方法の概要
| 比較項目 | 積算評価 | 収益還元法 |
|---|---|---|
| 評価の視点 | 「この不動産はいくらで再建築できるか」 | 「この不動産は将来いくら稼げるか」 |
| 計算の基準 | 土地価格 + 建物価格(再調達価格) | 賃料収入 ÷ 還元利回り |
| 向いている物件 | 自己使用・居住用 | 収益不動産(投資用) |
| 融資での使われ方 | 担保評価の基準 | 収益性の評価 |
| 評価の特徴 | 物件の「コスト」を反映 | 物件の「稼ぐ力」を反映 |
積算評価とは
積算評価は、「もしこの不動産を今新たに作るとしたらいくらかかるか」というコストアプローチです。
計算式
積算評価額 = 土地価格 + 建物再調達価格(建物残価値)
土地価格 = 路線価 × 面積 × 補正率(形状・利用状況等)
建物再調達価格 = 建物の面積 × 構造別の再調達単価 × (残存耐用年数 ÷ 法定耐用年数)
具体例
物件: 木造アパート(延床面積200㎡)・築15年・土地100㎡
路線価: 20万円/㎡
土地価格: 20万円 × 100㎡ = 2,000万円
建物再調達単価(木造): 約15万円/㎡
建物再調達価格: 15万円 × 200㎡ = 3,000万円
残存割合: (22年 - 15年) ÷ 22年 ≒ 32%
建物残価値: 3,000万円 × 32% = 960万円
積算評価額: 2,000万円(土地) + 960万円(建物残価値) = 2,960万円
積算評価が重要な理由
金融機関(特に地方銀行・信用金庫)は、融資の「担保評価」として積算評価額を使います。
融資可能額の目安 = 積算評価額 × 担保掛目(70〜90%)
例: 積算評価2,960万円 × 80% ≒ 2,368万円が融資上限の目安
物件の売買価格が積算評価額を大幅に上回る場合、金融機関は融資を出しにくくなります(担保不足)。
収益還元法とは
収益還元法は、「この物件は将来どれだけの収益を生むか」を基準に価値を算出する方法です。投資家・投資用不動産の評価で多く使われます。
直接還元法(シンプルな計算)
収益価格 = 純収益(NOI) ÷ 還元利回り(Cap Rate)
純収益(NOI) = 年間家賃収入 - 年間経費(管理費・修繕積立・固定資産税等)
還元利回り = 市場が期待するリターン率(エリア・物件タイプにより異なる)
具体例
年間家賃収入: 240万円(月20万円・6戸)
年間経費: 60万円
純収益(NOI): 180万円
エリアの還元利回り: 6%
収益価格: 180万円 ÷ 6% = 3,000万円
この計算で「市場が認める価値は3,000万円」と評価されます。
DCF法(より精密な計算)
DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来の賃料収入を「現在価値」に割り引いて評価する方法です。
将来の賃料変動・空室・売却価格を予測し、
それらをすべて現在価値に換算した合計 = DCF評価額
DCF法は機関投資家・REITでよく使われる精密な手法で、細かい前提条件が価格に大きく影響します。
積算評価 vs 収益還元法:実際の物件で比較
地方の投資用アパートを例に、両者の評価額が乖離するケースを見てみましょう。
物件: 地方・木造アパート6戸・築20年
実際の家賃収入: 年200万円(月17万円)
年間経費: 50万円
NOI: 150万円
地方エリアの還元利回り: 7%
収益還元価格: 150万円 ÷ 7% = 約2,143万円
土地: 路線価8万円 × 150㎡ = 1,200万円
建物: 200㎡ × 15万円 × 2年/22年(残存)= 272万円
積算評価: 1,200万円 + 272万円 = 1,472万円
この例では:
- 収益還元評価: 2,143万円
- 積算評価: 1,472万円
差額: 約671万円。売買価格が2,000万円の場合、積算評価では担保として不足しており融資が出にくくなります。一方、収益還元評価では価格が正当化されます。
「積算評価割れ」の物件は融資が難しい
売買価格が積算評価額を大幅に上回る物件(積算評価割れ)は、地方銀行・信用金庫での融資が難しくなります。この場合、収益還元評価を重視するノンバンク・信託銀行への打診が有効です。
融資審査でのそれぞれの使われ方
| 金融機関タイプ | 重視する評価方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 地方銀行・信用金庫 | 積算評価重視 | 保守的・担保評価が基準 |
| メガバンク | 収益還元+積算 | 総合的に判断 |
| ノンバンク(オリックス等) | 収益還元重視 | 柔軟だが金利高め |
| 信託銀行 | 収益還元重視 | 大型物件向け |
売却時の評価方法の活用
物件を売却する際も、どちらの評価方法が高い価格を示すかで、アピールすべき評価軸が変わります。
| 状況 | 有利な評価方法 |
|---|---|
| 都市部・賃料が高い物件 | 収益還元法(稼ぐ力が高い) |
| 地方・土地が広い物件 | 積算評価(土地価格が主) |
| 商業地の収益物件 | 収益還元法 |
| 農地・更地 | 積算評価(土地のみ) |
不動産会社に査定を依頼する際、「収益還元でも見てください」と伝えると、より投資家向けの視点での評価が得られます。
還元利回りの相場観
収益還元法の核心は「還元利回り(Cap Rate)」の設定です。エリア・物件タイプによって異なります。
| エリア・物件タイプ | 還元利回りの目安 |
|---|---|
| 東京都心・好立地 | 3〜4% |
| 東京23区(一般) | 4〜5% |
| 大阪・名古屋 | 4.5〜6% |
| 地方政令指定都市 | 5.5〜8% |
| 地方中小都市 | 7〜12% |
還元利回りが低いほど「高い価格がつく(稼ぐ力が評価される)」ことを意味します。
まとめ
不動産の価格は「どの物差しで測るか」によって大きく変わります。
| 積算評価 | 収益還元法 | |
|---|---|---|
| 何を見ているか | 物件のコスト | 物件の稼ぐ力 |
| 融資で使われる | 担保評価 | 収益性確認 |
| 投資家に有用 | 融資可能額の推定 | 適正価格の判断 |
| 売却で使われる | 土地重視の物件 | 収益重視の物件 |
物件を見るときは、この2つの評価をセットで確認する習慣をつけることで、「融資が通るかどうか」「価格が適正かどうか」の判断精度が上がります。
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