不動産投資で収益が拡大してきたとき、「そろそろ法人化した方が節税になるか?」という疑問が生まれます。個人で持ち続けるか、合同会社(LLC)や株式会社を設立して法人として運営するかは、年収・物件規模・将来の拡大計画によって最適解が変わります。
本記事では、個人と法人の税率比較から法人設立の手順・費用・デメリットまで、2026年の税制をベースに解説します。
個人 vs 法人:税率の違い
不動産投資の収益に対する税率は、個人と法人で大きく異なります。
個人の税率(所得税+住民税)
| 課税所得 | 所得税率 | 住民税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|
| 〜195万円 | 5% | 10% | 15% |
| 195〜330万円 | 10% | 10% | 20% |
| 330〜695万円 | 20% | 10% | 30% |
| 695〜900万円 | 23% | 10% | 33% |
| 900〜1,800万円 | 33% | 10% | 43% |
| 1,800〜4,000万円 | 40% | 10% | 50% |
| 4,000万円超 | 45% | 10% | 55% |
不動産所得は給与所得と合算されます。**年収700万円の会社員が年間不動産収入200万円を得た場合、合計課税所得は約700万円超となり、税率は33〜43%**になるケースがあります。
法人の税率(実効税率)
| 所得規模 | 実効税率の目安 |
|---|---|
| 〜800万円(中小法人) | 約21〜23% |
| 800万円超 | 約30〜33% |
中小企業(資本金1億円以下)の課税所得800万円以下の部分は、法人税率が15%(軽減税率)に抑えられます。
法人化が有利になるボーダーライン
個人の課税所得が**900万円超(税率43%)**を超える水準から、法人税率(23〜33%)より個人税率が高くなり、法人化のメリットが出始めます。一般的には「不動産所得が年500万円を超えたら法人化を検討」と言われます。
法人化の主な節税メリット
① 税率の低下
個人の最高税率55%に対し、法人の実効税率は約21〜33%。所得が高いほど法人化の節税効果は大きくなります。
② 役員報酬による所得分散
法人が家族(配偶者・子)を役員として登記し、役員報酬を支払うことで、個人に集中していた所得を分散できます。
例:夫の不動産所得2,000万円を法人経由で夫・妻・子に500万円ずつ分配 → 各自の税率が低下し、合計税負担を軽減
③ 経費の幅が広がる
法人は個人に比べて経費として認められる項目が多くなります。
| 経費項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 役員報酬 | × | ○ |
| 社宅(社長住居の一部) | × | ○(一部) |
| 生命保険料 | 一部 | 広範に可 |
| 退職金(役員) | × | ○ |
| 交際費 | 一部 | 800万円/年まで |
④ 繰越欠損金の活用
法人は赤字を最大10年間繰り越せる(個人は3年)。修繕費・取得費などが集中した年の損失を長期にわたって利益と相殺できます。
⑤ 相続対策としての活用
法人が不動産を保有する場合、法人の株式を相続することになります。不動産を直接相続するより、適切に設計すれば相続税評価額を引き下げられる可能性があります。
法人化のデメリット
① 設立・維持コスト
| 費目 | 金額目安 |
|---|---|
| 合同会社の設立費用 | 6〜10万円 |
| 株式会社の設立費用 | 20〜25万円 |
| 税理士顧問料(年) | 30〜80万円 |
| 法人住民税(赤字でも課税) | 7万円/年〜 |
| 社会保険料(役員報酬に応じて) | 役員報酬の約30% |
年間維持コストは最低でも40〜100万円程度が必要になるため、節税メリットがコストを上回るかの計算が重要です。
② 法人での融資が難しい
設立初年度の法人は決算書の実績がなく、融資審査が通りにくいです。代表者の個人保証を求められることも多く、完全な分離にはなりません。
③ 手続きの煩雑さ
法人は年次決算・法人税申告・社会保険の手続きなど、個人と比べて事務作業が増えます。税理士・社会保険労務士との連携が必須です。
④ 物件移転のコスト
個人保有の物件を法人に移す際は「売買」形式となり、譲渡所得税・不動産取得税・登記費用が発生します。すでに保有している物件の法人への移転は、コスト計算が必要です。
法人化のタイミング判断
法人化を検討すべき目安
- 不動産所得が年間500万円以上になった
- 個人の課税所得が900万円超になった
- 家族に収入を分散したい
- 今後も物件を2〜3件以上増やす予定がある
- 相続対策として資産を法人で管理したい
法人化を急がなくて良いケース
- 不動産所得が年間300万円以下
- 物件拡大の予定がない
- 法人維持コストが節税メリットを上回る
法人設立の手順
STEP1:設立形態の選択
| 形態 | 設立費用 | 特徴 |
|---|---|---|
| 合同会社(LLC) | 約6〜10万円 | 安価、定款自由度高い |
| 株式会社 | 約20〜25万円 | 信頼性高い、金融機関の評価も高い |
不動産投資目的の法人は、コストが低く設立が簡単な合同会社が選ばれることが多いです。
STEP2:定款作成・登記申請
- 商号(会社名)の決定
- 事業目的(「不動産の賃貸・管理・売買」等)の記載
- 資本金(1円以上、100万円程度が目安)の設定
- 公証人認証(株式会社の場合)
- 法務局への登記申請
STEP3:税務署・自治体への届出
- 法人設立届出書
- 青色申告承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
STEP4:銀行口座開設・物件の取得
法人名義の銀行口座を開設し、法人として物件の取得・融資申込みを進めます。
個人 vs 法人:選択のチェックシート
| チェック項目 | 個人向き | 法人向き |
|---|---|---|
| 不動産所得 | 〜300万円 | 500万円超 |
| 課税所得(給与含む) | 〜700万円 | 900万円超 |
| 将来の物件数 | 1〜2件 | 3件以上 |
| 家族への収入分散 | 不要 | 必要 |
| 相続対策 | 当面不要 | 必要 |
次の一歩
不動産投資の税務相談はこちら税理士への相談を早期に
法人化の効果は個別の収入・資産状況・家族構成によって大きく異なります。「法人化した方がいいですか?」という問いに対して、正確な節税シミュレーションは税理士でないとできません。
不動産投資に強い税理士を選ぶポイント:
- 不動産オーナーの顧問実績が多い
- 法人設立・個人保有の比較シミュレーションを提示してくれる
- 融資・相続まで視野に入れたアドバイスができる
まとめ
| 観点 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 税率 | 最高55% | 最高33% |
| 経費範囲 | 限定的 | 広い |
| 設立・維持コスト | 不要 | 年40〜100万円 |
| 融資の通りやすさ | 個人の信用力 | 初年度は難しい |
| 向いている人 | 物件1〜2件・収入少ない | 物件3件以上・高収入 |
法人化は「節税の魔法」ではなく、収益規模とコストのバランスを計算した上での戦略的判断です。焦らず、専門家のアドバイスを受けながら最適なタイミングで実行しましょう。