不動産投資ローンの審査では、単に「物件を買いたい」という意思表示だけでなく、収益が見込めるという数値的な根拠が求められます。特に一棟物件・複数戸・法人名義の融資では、銀行担当者が稟議を通すための材料として事業計画書が重要な役割を果たします。本記事では融資審査を通過するための不動産投資事業計画書の書き方を実践的に解説します。
事業計画書が必要な場面
一棟物件・複数戸・法人名義・大型融資
銀行が最重視する指標
DSCR(借入金返済余裕率)1.2以上
必須の構成要素
物件概要・収支計算・返済計画・リスク分析
楽観主義は禁物
空室率・修繕費を現実的に盛り込む
根拠の明確さ
家賃相場・空室率は市場データで裏付け
融資担当者の視点
「この案件は融資して回収できるか」を常に意識
なぜ事業計画書が必要か
銀行の融資担当者は「案件を稟議に上げるための材料」を必要としています。投資家からの事業計画書は、担当者が上司・審査委員会に説明する際の根拠資料になります。
事業計画書があると有利な場面
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 一棟アパート・マンション投資 | 収益性の証明が必須 |
| 法人名義での融資申込 | 法人の事業の合理性を示す |
| 複数物件保有時の追加融資 | 総合的な返済能力の説明 |
| 初めての投資(属性が弱い場合) | 物件の収益性で補強する |
| 地方物件・築古物件 | 担保評価が低い分、収益性で説得 |
事業計画書の基本構成
構成の例
- 表紙・申請概要
- 投資家プロフィール(年収・資産・職業・投資目的)
- 物件概要(所在地・構造・築年数・規模)
- 収支計算書(月次・年次)
- 返済計画表(DSCR計算)
- リスク分析(空室・金利上昇・修繕)
- 出口戦略(売却タイミング・想定売却価格)
各セクションの書き方
1. 投資家プロフィール
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 氏名・年齢 | 基本情報 |
| 職業・勤務先 | 安定収入の証明 |
| 年収(直近3年) | 返済能力の基本 |
| 金融資産 | 預金・有価証券(頭金・余力の証明) |
| 不動産投資歴 | 経験値(初心者は「これから始める理由」を記載) |
| 投資目的 | 老後の年金補完・節税・資産承継など |
2. 物件概要
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 所在地 | 都市・区市町村・最寄り駅徒歩分数 |
| 構造 | RC造・SRC造・木造・軽量鉄骨 |
| 築年数 | 建築年月 |
| 総室数 | 戸数・面積 |
| 取得価格 | 売買価格+諸経費 |
| 担保評価 | 銀行の担保評価(積算評価・収益評価) |
3. 収支計算書(最重要)
銀行が最も注目する部分です。楽観的な数字だけでなく、現実的なベースケースで計算することが信頼性につながります。
収支計算書のサンプル
| 項目 | 月次 | 年次 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 満室家賃収入 | 50万円 | 600万円 | 全戸満室の場合 |
| 空室損(10%) | △5万円 | △60万円 | 現実的な空室率 |
| 実効家賃収入 | 45万円 | 540万円 | |
| 管理費(5%) | △2.25万円 | △27万円 | |
| 修繕費積立 | △2万円 | △24万円 | 月2万円積立 |
| 固定資産税等 | △1.5万円 | △18万円 | |
| 損害保険 | △0.5万円 | △6万円 | |
| NOI(純収益) | 38.75万円 | 465万円 |
空室率は最低でも10%で計算する
銀行審査では空室率0%の楽観計算は通用しません。東京都心でも5〜8%、地方では10〜15%の空室を想定した計算を示すことで「現実を分かっている投資家」と評価されます。
4. 返済計画表(DSCR計算)
DSCR(Debt Service Coverage Ratio:借入金返済余裕率)は銀行が特に重視する指標です。
DSCR = NOI ÷ 年間元利返済額
| DSCR | 銀行の評価 |
|---|---|
| 1.5以上 | 優良(融資がつきやすい) |
| 1.2〜1.5 | 良好(標準的) |
| 1.0〜1.2 | ギリギリ(条件付きで可) |
| 1.0未満 | 赤字(融資困難) |
返済計画のサンプル
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 融資額 | 4,500万円 |
| 金利 | 1.8%(変動) |
| 借入期間 | 25年 |
| 月次元利返済額 | 約18.5万円 |
| 年次返済額 | 約222万円 |
| NOI(年次) | 465万円 |
| DSCR | 465 ÷ 222 = 2.1(優良) |
5. リスク分析
銀行は「最悪のシナリオでも返済できるか」を確認します。
ストレステストの例
| ストレスシナリオ | 内容 |
|---|---|
| 空室率20%での収支 | NOIがどこまで下がるか |
| 金利2%上昇での返済額 | 月次CFへの影響 |
| 大規模修繕(300万円)発生時 | 手元資金と運用への影響 |
| 家賃10%下落での収支 | 利回りと返済の関係 |
次の一歩
融資相談・事業計画のサポート6. 出口戦略
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 想定保有期間 | 10年・15年・20年 |
| 売却時の想定価格 | 現在価格の70〜90%で保守的に計算 |
| 売却益・損の試算 | 減価償却後の簿価と売却価格の差 |
| 相続・法人承継 | 売却以外の出口も提示 |
銀行担当者に刺さる書き方のコツ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 数値に根拠を示す | 「周辺の類似物件の家賃相場はXX〜YY円(SUUMO調査)」 |
| 現実的な仮定を使う | 空室率・修繕費は実際の市場データ参照 |
| 1ページで概要がわかるサマリー | 担当者が上司に説明しやすい形 |
| 補足資料を添付 | 物件写真・周辺地図・賃貸相場データ |
| 将来のシナリオも示す | 物件数拡大計画・返済完了後の資産価値 |
よくある失敗パターン
| 失敗 | 内容 |
|---|---|
| 空室率0%で計算 | 銀行に「甘い計画」と判断される |
| 修繕費ゼロで計算 | 実態と乖離している |
| 出口戦略がない | 「いつどうやって返すか」が見えない |
| 数字の根拠がない | 「なぜ家賃8万円か」の説明がない |
チェックリスト
事業計画書の完成前チェック
- ✓空室率10%以上の現実的な数字で計算したか
- ✓修繕費積立を月次コストに含めたか
- ✓DSCRが1.2以上になっているか確認したか
- ✓ストレステスト(空室20%・金利上昇)を計算したか
- ✓家賃相場の根拠データ(SUUMO等)を添付したか
- ✓出口戦略(売却想定価格・タイミング)を記載したか
まとめ
融資審査を通過する事業計画書の核心は「数値の現実性と根拠の明確さ」です。楽観的な仮定ではなく空室率・修繕費を適切に盛り込み、DSCRが1.2以上になることを示すことで銀行担当者が稟議を上げやすくなります。初心者は不動産投資会社・税理士・FPに計画書の作成サポートを依頼することも有効です。事業計画書は「融資のための書類」であると同時に、自身の投資判断を整理する「自己チェックリスト」でもあります。
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